写真集:地球家族 / 僕だってたまには男泣く

2009/09/17 加筆
2016/03/20 加筆、リンク更新

自宅の本棚は、無駄なスペースを可能な限り減らせるようにセシールの壁面本棚(奥行き17cm)を使っているのだが、その天板の上、まるで神棚のようなその場所に、それこそ筆者にとっての神本として、本書が保管されている。
写真集『地球家族』は、1992年、ドイツ人写真家 Peter Menzel 氏が世界30カ国を訪れ、各国の「平均的」とされる家庭とその家族の家財道具一式を1枚の写真に収めてまわった写真集。氏は、それぞれの家族に向けてこう尋ねる。「あなたの一番大切なものは何ですか?」

後者のテレビ番組は、その8年後に再び同じ家族に会いに行き、同じ写真を撮影して(もちろん家財は(そして家族も)増えたり減ったりしている)、やはり同じ問いかけをしてまわる様子を綴ったドキュメンタリー。筆者が観たのはNHK総合で放送された短縮版であった。

なお,写真集の一部は下記サイトにて閲覧することができる。

* * *

さて、写真集だけでも十分に見応えがあり、そして学ぶことも多くある作品であるのだが、ドキュメンタリーを見ることで、感じ受けたものは倍増した。

8年前には「私は成功は望まない」と言っていたブータンの僧侶は、今になって言う。「子供たちのために成功したい。しかしその方法がわからない」と。村にはこの日、初めて電気が通った。

8年前の内戦のさなか、一番欲しいものは「平和」だと答えたボスニアの家族。現在、命が脅かされる危険こそ無くなったものの、彼らは明日の生活すらままならない経済的不安にさいなまれている。

モンゴルの一家は8年の間に借金を抱えて家財のいっさいを売り払い、不眠不休で働く。この間に増えたものは「テレビ1台」。

また、短縮版では放送されなかったが、当時政情不安定だったロシア人一家の家長は8年前の写真が撮影された4日後(だったと思う)、射殺されたとのこと。

そして、日本。バブルの後に一気に不況に陥った日本だが、それでも8年の間にほとんどの家電製品が買い換えられていた。一番大切なものは「家族」。しかし、一日のうちに家族が一緒に過ごす時間はほとんどない。


もちろん、彼らはあくまでも「平均的」な家族というだけであって、その国の全ての家庭がこうであるわけではない。「平均値」と「最頻値」と「中央値」は全く別物だし、「平均」に「分散」は現れない。ましてや、表情や立ち位置がどうだからと言って、たった1枚の写真からその家族の関係や人間性にまで言及することなどできるはずもない。

重要なのは、多種多様な人々がいる中でも人間・家族の本質は変わらないということ。本人にとっての「幸」「不幸」と「(物質的な)貧富」は関係がないということ。と同時に、貧富の差は、明らかにここにあるということ。(写真集の原題は「Material World」。こっちの方がより本質を突いていると思うのだが。)

* * *

では、筆者も同じ質問を受けてみよう。

―― 一番大切なものは何ですか?
時間です。与えられた1分1秒を無駄にしたくない。家族だとか友人だとかも大切ですけどそう答えなかったのはたぶん、今が人生の中で唯一、一人でも大丈夫な時期だからじゃないでしょうか。

―― 一番欲しいものは何ですか?
それが分からなくて、悩んでいるのです。

―― あなたにとって「人生の成功」とは何ですか?
笑顔で死ねること、でしょうか。

―― あなたの夢はなんですか?
それが決められなくて、苦しんでいるのです。

―― 今の生活に満足していますか?
満足しています。でも、もっと良い生き方があることを知っているし、もっと良い生活を目指しています。

―― あなたは今、幸せですか?
幸せです。何か基準があるわけでもなく、誰と比べるわけでもないですが、ただなんとなく幸せだと感じます。もちろん、より幸せな幸せが上にはあることも知っているし、より幸せになればそれとは別の悩みや不幸が生まれることも、知っているつもりです。


【移行前のコメント】

shoot 2005-12-25 @ 20:35
大切なものはと聞かれたら、自分の「手」とあとはうふふとしか答えられないな。
まあそれはいいとして、やっぱり日本人は物質的には恵まれていてはいるけれど、それでも不幸だと思っている人は多いと思うな。自分も経済的に貧しいわけではないけれどなんとなく不幸だと思うこともあるし。
精神的な充足を。

みなみ 2005-12-25 @ 21:12
今の生活に満足し、幸せだと思いつつも、更なる上を知り、それを目指すこと。
それってシンプルだけどいちばん大切なことなんじゃないかなと思います。

「今のままで満足」と朗らかにぬるま湯に浸っているわけでもなく、
「理想が遠い」と焦燥し絶望し欠落感に苛まれるわけでもなく、
そんな一喜一憂を受け止めつつも上を目指すこと。

日々の感情に流されてなかなか出来てないけど、
自分の人生をきちんと引き受けて、上を向いて生きていかなきゃなあ。

読んでそんなことを思いました。

文 2005-12-26 @ 4:10
>shoot
あとはうふふっていったい何なのか気になって仕方がないのだが…
「人は他人と比較しないと幸か不幸かがわからない」という話もあったな。基準がそもそも違うのに一体どこを比べるっていうのかね。

>みなみさん
なんとかそう生きていきたいものです。果たしてそれを実践できるかと訊かれるとかなり疑わしいですが( ̄▽ ̄;

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2 コメント

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Zzz
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2009/09/18 0:47 delete

4年前の記事ですがコメントさせてください。
>>写真集の原題は「Material World」。こっちの方がより本質を突いていると思うのだが。
私もそう思います。でも、よく考えてみると物資の上では豊かな日本に住む私たちにとって、この本を手に取るきっかけは「地球家族」といった、他の国ではどんな暮らしをしているのだろうという、そういった単純な興味だと思います。この本で物資や生活の価値観の違いを見せつけられたあとは、確かにMaterial worldの方がしっくりきますね。同じような企画がまた行われるとうれしいですね。

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detourist
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2009/09/18 8:02 delete

>Zzzさん
そうですね,私たち読者が興味を惹かれるのも,著者が伝えたいであろうテーマも,恐らくは「家族の絆」であり「生活の多様性」にあるのだと思います.
一方で,それらは直接見る/見せることができない.
そうしたやっかいな対象を,家財一式という「モノ」を写すことで逆説的に――そして効果的に――表現したことに,感服です.

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